2014年7月30日水曜日

平壌麺屋(ソウル・東大門)

冷麺(税込11,000ウォン)。2014年6月
ソウル。地下鉄・東大門歴史文化公園駅のすぐ近くに、平壌冷麺の専門店がある。その名も「平壌麺屋 (평양면옥)」。

創業者は平壌から渡ってきた人で、いまは3代目が継いでいるという。解放後の混乱期や朝鮮戦争中、北から南へ渡ってきた人が大勢いた(もちろん逆もたくさんいた)。そういう人が平壌冷麺や咸興冷麺の店を出したケースがけっこうあるようで、ソウルにもその手の冷麺専門店がいくつかある。

とういうわけで、今回、そんな店のひとつである「平壌麺屋」を訪れてみたわけだ。ここを選んだ決め手は、ネット上の評判、そして何よりもこの単刀直入な店名である。

駅から南へ少し歩くと、店がある。見逃すことはまずない。隣接する機械式駐車場のタワーに、でっかく「平壌麺屋」と書かれているからだ(駐車場が店のものなのかはわからない)。

店内は広い。四角いテーブルがずらりと並び、天井に白い蛍光灯が煌々と輝く。厨房に目をやると、たくさんの従業員がせわしく調理にいそしんでいる。いささか殺風景というか、少し古びた社員食堂のような印象である。少なくとも、来店前に想像していた「3代続く平壌冷麺専門店」のイメージとは違った。

しかし、だからといって雰囲気が殺伐としているわけではない。店内はけっこう賑わっていて、ぱっと見た限り、客は中高年がほとんどだ。そして、普通に冷麺を啜っているグループもいれば、肉料理やマンドゥを並べて昼間からソジュジャン(焼酎グラス)を傾けているグループもいる。

厨房に近い奥のほうの席に着き、冷麺を注文。値段は11,000ウォンである。日本円で1,100円ぐらい。韓国の物価からすれば、かなり強気の価格設定だ。この値段を考えれば、客層が中高年中心なのも納得がいく。

白菜キムチとトンチミ(大根の水キムチ)が出てきて、まもなく冷麺も出てきた。蛍光灯に照らされて、透き通ったつゆがますます透き通って見える。そして、つゆの真ん中に茶色い麺の島があって、その中央に具のタワーがそびえている。なるほど、やはり平壌冷麺といえばこのスタイルなのか。ハサミが用意されていないので、麺は切らずにこのまま食べるようだ。この点も平壌冷麺らしい。

麺の島に箸を入れ、ほぐし、すする。不思議な麺だ。日本蕎麦ほどではないが、かなり「蕎麦蕎麦しい」。冷麺らしいコシを具備していながら、いとも容易く噛みきれる。本場の平壌冷麺は蕎麦粉100%だと聞いていたけど、蕎麦の比率が高いとこうなるのだろうか。

そしてこの麺、つゆがよく絡む。つゆは肉の出汁がしっかり効いていて、淡泊だけど抜け目の無い感じ。例のごとく、最初の味見を終えたら早々に酢とキムチをブチ込んだ。それからは、ほぼノンストップで一心不乱に麺を啜り続けたのであった。

いままで出会った冷麺のなかでは、僕の「理想の冷麺」像に最も近いのが、この「平壌麺屋」の冷麺だ。なにしろ、この蕎麦っぽい麺が気に入った。

目下、平壌に行く可能性よりはソウルに行く可能性のほうが高いので、またこの店に来てみたい。あ、だけど別の冷麺専門店を開拓してみたい気もする。ただ、どっちにしろ問題なのが、韓国では「ぼっち飯」があまり一般的ではないので、1人だと行きづらいという点だ。今回はよかったけど、次回もいっしょに来てくれる人がいることを願うしかない。


こちらは携帯で撮った写真